
アッパーデッキの流れをイメージする
アッパーデッキの流れは一見シンプルに見えるようだが、細かく分析すると実に奥が深く、すばらしいトリックであることがわかる

Special Thanks:SnowBoarder(実業之日本社)
2002年2月12日にテレビ放映されたソルトレイク・オリンピックの男子ハーフパイプ競技で、並み居る海外ライダーに臆することなく、若干17歳の高校生「中井孝治」が日本人唯一決勝に残り、僕ら日本人を感動させてくれたことを、誰もがきっと覚えているだろう。疑惑のジャッジで5位となり、メダルを逃しましまったが、その圧倒的な高さを誇る“アッパーデッキ”は、「中井孝治ここにあり」を世界にしっかり印象づけてくれた。この一発で、日本人が世界に通用することも、世界に証明してくれた。今回の、「TOP RIDERの肖像中井孝治」編は、その“アッパーデッキ”の秘密から、上達のためのヒントを探り出してみたい。
アッパーデッキの流れは一見シンプルに見えるようだが、細かく分析すると実に奥が深く、すばらしいトリックであることがわかる
ソルトレイク・オリンピック後の3に、石打丸山で開催されたコアゲームの時のこのアッパーデッキは、本人いわく「オリンピックの時くらい高く飛んでいたし、しかもゆっくりフワッと回れたので気持ち良かった」と。中井自身が納得したライディングだったようだ。
なによりすごいのが、抜けの瞬間である。アッパーデッキをためしたことのある人はすでに経験していると思うが、リップからの飛び出しで、タイミングよく垂直近い角度でリップを抜けるためには、テールをただ抜かないし、しかも蹴らないで、“テールの抜けをリップぎりぎりまで我慢しながら、テールの反発力を使って上への推進力にする”という技が必要になってくる。中井いわく「アッパーデッキは抜けが命」と言うほど、この微妙なサジ加減は中井ならではだが、“テールをうまく使って抜ける”という技術は、みんながパイプで高さを出してうまくすべりたいということの参考になるはずであろう。中井は以前この感覚を「テールをペロンとさせる」と形容していたのを、今でもはっきり覚えている。
また“リップを見続けられる”という点でも、中井の天才的な面が伺える。ハイスピードでアプローチしていながら“リップを見続けられる”テクニックは、簡単なようでなかなかできるものではない。“リップを見続けられる”ことができれば、スピードに対応した体の回転のコントロールができる。見ることで目線をリップに固定すれば、今自分がどんな状況下にあるかを瞬時に判断できる。そうして体の開き具合や、グラブの長さ、腕の位置を微調整でき、回転をコントロールしていけるのだ。これらが無意識にできるから、この高さのアッパーデッキをいとも簡単にメイクできると言えるだろう。
テリエ・ハーコンセンがよく「猫のようだ」と言われるが、まさしく中井もこの言葉が当てはまるだろう。このシークエンスは、何も言うことがないほど完璧なアッパーデッキといえる。これを読めば「パイプ上達の何か」をつかめるはずだ。

スピードがあり、ラインにしっかり乗ることができれば高く飛べる
スピードがあり、ラインにしっかり乗ることができれば高く飛べる

アッパーデッキに限らず、パイプではアプローチでスピードを殺さないようにすべることが大切だと言える。そのためにもボトムで無駄な動きを抑えて、早いうちに自分のイメージするラインにボードを乗せないといけない。壁にきてから、あわて自分のラインを取ろうとして過度のエッジングをしたり、パンピングしたりすると、せっかくそこまでためてきた力が分散してスピードも落ちるし、しかも高く飛ぶことにおいて致命的ともいえる、体の軸のバランスを崩す原因にもなる。
だから中井の場合は、早い時点で自分のラインに入り、その後は自分の力と重力とをすべて前に走るエネルギーに変えるように、ヒザを柔軟にして、両足にしっかり荷重し、体の軸を意識しながらボードを踏み込んでいる。このことで、体の軸は安定し、安定すれば雪質や雪面状況が変化しても、アプローチでやられてスピードが落ちることが少なくなるのだ。
スピードを殺さないために、Rに入ったらボードをフラットにして壁を上がる
スピードがついたからといって、必ずしも高く飛べるわけではない。反対側の壁を降りる時に、早い段階でライン取りのためのボード操作を決めているように思える。そうしなければ、一番スムーズにすべる必要があるボトムで、ライン取りのためのエッジングをしなければならなくなり、せっかくいままでためてきたスピードが落ちてしまう。
アッパーデッキの場合の自分の思う理想的なラインは、なるべくリップのラインに向かってボードが垂直に近くなるようなライン。アプローチからリップにかけて斜めのラインをとってしまうと、そのままリップの抜けで斜めのまま空中に出てしまうからだと言えるだろう。「斜めにラインをとったほうが、スピードが出るのではないか」と思っている人も多いと思うが、実はこれだと高さが出なくなる。自分は高さのあるアッパーデッキを求めているから、アッパーデッキのような技をやるなら、このライン取りは基本になるはずだ。
そして、ボトムではなるべく低い姿勢になり、無駄なエッジングは避けてスピードをキープする。前の肩を目の前にある壁に向かってリードする(引っ張るようなイメージ)とラインからはずれない。後ろの腕でバランスをとると安定する。ボトムでリップのラインに向かって垂直に近くなるようなラインをとったら、なるべくボードをフラットにしながら壁に入る。
中井は昔、マックツイストをやっていた頃があったが、自身「これだと高さに限界があるな」と思っていた。くしくもその頃は、バックサイドでのチャックフリップがはやっていて、それをやろうとしたが、あまりうまくできず、アッパーデッキっぽい形になってしまっていた。その時に同じナショナルチームのメンバーだった宮脇健太郎(中井と同じくソルトレイク・オリンピックに出場)がアッパーデッキをやっていたので、「どうせ自分のがアッパーデッキっぽいなら」と、宮脇にやり方を聞いてやるようになったのが、中井のアッパーデッキの始まり。

抜けの瞬間の頭の位置を意識し、腰の引き上げですべてが決まる
抜けの瞬間の頭の位置を意識し、腰の引き上げですべてが決まる

この真駒内のワールドカップの写真は、一見、スムーズにメイクしているように見えるが、実は抜けの時にしかけが早く、しかも手を入れすぎて失敗している。その証拠に、後半の空中でノーズが上がりっぱなしになり、テールからパチンって降り、着地だけ見るとマックツイストっぽくなっている。これだと、中井の中では失敗と言えるだろう。実際に高さも出ていない。 中井いわく「フワッと回れなくて遠心力を感じたし、着地で一回パンってつぶされて、耐えなければならなかった。コアゲームの完璧に成功しているやつは、フワーンっていう感じで勝手に回ったし、ランディングで壁にエッジもかからなくて、そのままパンピングしていけた。ああいう着地の仕方ができると完成度も高い。きれいなアッパーデッキは斜めに前方宙返りしているだけで、着地でボードのノーズの方が下がりながら壁にピタッと着く。テールからパタンって着くような動きがないんだ」と。
自分のラインでしっかり壁に入ってRをすぎたら(バーチカル部)、リップを抜ける瞬間に少しだけヒールエッジ側に乗り(ヒールエッジをかける)ながら抜けている。その時、頭の位置を意識することが重要。頭を少し後方のボトム側に入れてやるように意識しながら、同時に腰をポーンと上に引き上げてやると、ヒールエッジにかかりながらリップぎりぎりでテールを弾く操作ができるから、高さが出せるのだ。だから見た目でも、テールがポーンときれいにまくれ上がれるのだ。中井はどちらかというと、抜けで無理矢理回転しようとするような大きな動作は入れてはいないはずだ。この頭を入れる動作だけで、回転のきっかけを作っていると言えるだろう。
中井は「アッパーデッキを1発目のバックサイドでやる場所は、必ず他の人が1発目でフロントサイドを飛んで、2発目のバックサイドで着地したところ。他の人が着地したところは壁が開いているし、長めにプラットフォームをアプローチできるんでスピードが出せ、その分高さが出せるから」と話す。アッパーデッキはフロントサイドの720のように、体の先行動作を使って踏み切れないから、その分スピードがないと飛べない。逆に言うと、横スピンと違ってスピードがつけばつくほどいくらでも高く飛べるのだ。
【テールを弾く】テールからきれいに抜けられるように、ぎりぎりまで待って踏み切る
頭を入れ、腰を引き上げるタイミングは、ボードのセンターがリップに差しかかったあたり。そうすると抜けをぎりぎりまで待てるから、少しヒールエッジがかかりながらテールがきれに抜けるので、ゆっくり回転し始める。頭をただボトム側に入れるだけだと、ボードがフラットぎみに抜けてしまい、リップにテールを引っかけながら抜けるようなテールを弾く操作ができず、上への推進力を得られない。こうすると高さが出ない。
キア・ディロンも、頭と腰をうまくつかって、スムーズに抜きながら踏み切る微妙な操作をしているから、高くてきれいに回れるのだろう。この抜け方は、アッパーデッキには調子いいはずだ。アッパーデッキは、リップまで我慢して、ボードが抜ける瞬間に頭を入れ、同時に腰を引き上げるタイミングさえつかんでしまえば、たとえ抜けの時の微妙なテールの残しができなくて高さがあまり出なくても、基本的なことは必ずマスターできる。
スピードをつけてテールを弾く踏み切りの動作を、パイプの壁が立っている場所でやるとボトムに落ちてしまうから、少し壁が開いているところでやる方がいいだろう。そうすると、ランディングでちょうどよくリップに帰ってこられはずだ。アッパーデッキに限らずバックサイドエアーでは、抜けの時にテールを弾く踏み切りの操作は必要だ。テールをどれだけうまく使えるかが問題と言えるのだ。ただスピードだけで飛んでいくよりも、もっと高さが出せるように、テールをペロンと上にまくらせてやるような操作が大切なのだ。
空中では常に着地が見える。見えるから思い切って飛べるし、リカバリーもできる

アプローチでは常にリップを見ているし、抜ける時もギリギリまでリップ見て、抜ける瞬間にくって頭を入れている。抜けるまでは壁が見えて、くるって逆さまになった時からずっと左のほうから下(着地点)が見えている。それに、ほとんどリップが見ているから、必要以上にクルクル回ることもなく、自然にゆっくりと回転する。空中では常に着地をずっと見ていることに集中している。頭が下になった逆さまの状態から、回りながら体が上がった時に、首が上がっているように見えるのは着地を見ているからだろう。
見えないのは飛び出した直後くらい。だから、抜けで失敗しても下が見えているから「ああ、これは外飛び出そう」とか「ボトムに落ちそうとか」わかるのだ。見えているから自分の飛んでいる位置がわかり、リカバリーもできる。アッパーデッキとマックツイストは、結構混同されやすいトリックだが、決定的な違いは、アッパーデッキは左から下が見えるが、マックツイストは右肩越しでないと下が見えない。だからアッパーデッキのほうが絶対に見やすい。つまり、見やすいから着地も安定するし、思い切って高さも出しやすいのだ。
抜けで頭を入れることで、ゆっくりした回転力を作る【空中姿勢】
アッパーデッキは、前に書いたように、少しパイプの壁が開いたところで仕掛けた方がいい。壁が立っている場所では、スピードの分しか高く飛べないので、ちょっとでも雪面を蹴れる開いた壁でやる。でもこのスピードで高さを出しながら、空中で回そうという動作を入れると回り過ぎて失敗してしまう。だから中井は、抜けで頭を入れることで回転のきっかけを作り、空中に出たら素早く小さくなって、できるだけ回そうとする無駄な動作はしていない。体を小さくすれば、回転力がつき自然に回ってくれるから、あまり遠心力を感じないはずだ。それにグラブしながら小さくなるとボードと体が一体となり、体の軸も安定するから、バランスよくフワって回る感じが出せるのだ。
回そうという動作を入れている人は、早くグルグルって回って、どちらかというと回るというより回されている感じになっているのだ。「回転にオツリがきてしまう人は、「回そう回そう」という意識強すぎて、それが動作に入ってしまい、テールを使って抜けていない(抜けで頭を落とすのはテールを使って高さを出すのと同時に、回転も作っている)。テールをうまく使える人は、その反発力でボードを上にまくらせてやれるから、アッパーデッキなんかが向いていると思う(中井)」。グラブしていない腕の位置はとくに意識していないようだが、縮こまっているよりも伸びていたほうが、バランスがとりやすいのだ。
リカバリーしやすいのもアッパーデッキの特徴【リカバリー】
中井は、「たまに抜けを失敗して回転が速くなり、「回り過ぎそうって思ったら、体を伸ばして遠心力つけて回転を止めるようにする。そうすると安心してランディング体勢にはいることができる。ライオさんとかがよくスイッチロデオで失敗した時にやるみたいに。目線でも話したように、着地がずっと見えているからそういうのも調整できる」と話す。リカバリーが結構きく点も、アッパーデッキの特徴と言えるのだろう。
着地のあわせは、ヒザの曲げ伸ばしで調整していく














空中からランディングまでは、ランディング地点をよく見ながら調整している。「『回りすぎだなー』って思ったら、足を伸ばしたり、体を開いたりして回転を抑えたり、『回転がほんのちょっと足りないー』という時は、ヒザを曲げてボードが壁につく時間を、0.何秒でもいいから少しでも遅くして回りきるとかしている」と中井は話す。ボードがリップに乗っかりそうな場合は、できるだけヒザを抱え込むようにして小さくなり、着地で受ける衝撃をうまく吸収してリカバリーしている。ヒザの曲げの度合いを使ってリップとボードの距離を微妙に調整しランディングする。この時、足が伸びていると、ポンポンとランディングで跳ねてしまう。着地で跳ねてしまうと、当然バランスが崩れるので、ボトムに撃沈してしまうのだ。これには慣れっていうのもあるようだから、最終的にはどれだけ集中して練習し体得していくしかない。とにかくランディングは、“あわせる”を常に考え、次の壁へのファーストステップだということを意識することが大切なのだ。
ランディングしたらすぐにラインを決め、ヒザを送り出して加速させる【加速】
着地では、進行方向にノーズがまっすぐ向いた状態で降りたほうがパンピング(加速)しやすいし、次の壁へのライン取りができる。中井は「自分のアッパーデッキの場合、降りた後のパンピングはあまり手を使わない。たぶん長めにグラブしているから手が使えないのかもしれない。ボードのソール面がピタッと壁についた瞬間に、Rからボトムのつなぎ目まででヒザを前にぐっと送る感じ。そうするとビューンって加速していく」と話す。スピン系のトリックの場合、普通のエアよりもスピードが落ちやすいから、その分このパンピングを意識してやるようにしているのだ。
Special Message From Takaharu NAKAI
「みんなは、僕がアッパーデッキを普通にメイクしているから、いつも簡単にできるものだと思っているかもしれないけど、行く前には絶対に「アッパーデッキはフラットに入って腰を上げて」とか頭の中でいろいろなことをしっかりイメージしている。かなり集中していると思う。ケガをするのが怖いから、一本一本きっちりイメージして、すべりが無駄にならないように集中してすべっている。自分は、うまくなるのは回数じゃなくて、どれだけ集中してすべるかだと思っている」。
Special Thanks:SnowBoarder(実業之日本社)